クリスマスも終わるといよいよ年の瀬ですね。年末年始はお笑い番組が多くて幸せです。
今年はたくさん本を読めたので、読んだ本を一言ずつ紹介していきます。
技術書・専門書の類が多く、小説は1冊もありませんのでご了承を。
「読んだ本」
一言「読んだ」といっても本の読み方にも色々あって、何をもって「この本を読んだ」といえるのかは意外と難しいものです。本のジャンルにもよりますしね。
特に技術書なんかは頭から順番に読む必要もなければ、全部読む必要もないので。
そんなわけで「読み方」別にまとめました。
読み込んでブログ記事にした本
ポモドーロ・テクニック入門
昨年後半にダラダラ残業が多かったので、ちゃんと集中しようと思って読みました。
フタを開けてみると、魔法の手法ではなく「事前にタスクをリストアップして見積して、集中してやりつつ適度に休憩する」王道の自己管理術でしたね。
思考の整理学
これは自分にとっての「今年の一冊」 と言ってよいかなあ。
この本のおかげで、数年前から悩んでいた「自分には創造性が足りない」問題に対して区切りをつけられました。読み物としての読みやすさと構成の美しさも推しポイント。
読書会で読んだ本
「点検読書」とは「本を読む本」に出てくる言葉で、本の内容を確認する作業です。
自分の点検読書のやり方は(テンプレは当時と少し変わってますが)Qiitaにまとめています。
そんなわけで、内容の確認のつもりだったのに面白くて読みこんでしまった本たちです。
エンジニアのためのマネジメント入門
記事を出したばかりですが、初めて自分が主催メンバーの読書会で読んだ本。著者との質問会も開催できました。
詳しくは以下の記事へ。
Googleのソフトウェアエンジニアリング
昨年秋ごろから1年以上にわたって読んだ本。
読書会は「章ごとに各々がその場で読んでScrapboxに感想を書いてディスカッションする」という形でした。参加者の各々の環境が全く違うことや博識な方ばかりだったことで毎回大いに盛り上がりました。
こういう話ができたのは、Scrapboxの最後に毎回
- Googleにしかできないとしたら、それはなぜか?1
- 現場でどこまでできているか?
- この本があるのになぜ実践する企業はすくないのか?
- それの乗り越え方はなにか?
- ステップを小さくするとしたらどうできそうか?
という問いが用意されていて、学んだことを自分の糧にする仕掛けがなされていたからで、これはどこかで真似したいですね。
本書を読んで、Googleのすごさは「ルールを作って自動化してスケールさせる」ことへの情熱が、個人にとどまらずに企業文化になっていることだと感じました。
主催のきょん(@kyon_mm)さん、ありがとうございました。
点検読書と思ってたのに読み込んでしまった本
記憶力の正体
「学習効率上げたい」で認知科学に流れ着いた一環で読んだ本。
本書の主題は「記憶は言葉によって支えられ、いかに語るかで変容する」というもの。自身の不幸を笑い飛ばす心の余裕を持ちたいものですね。
また、人間の記憶がいかに当てにならないか、意識を新たにしました。個人間の信頼関係の話にすり替えるのはNG。
一方で、身体的・無意識的記憶についても語られています。まだまだ未解明なことが多い分野ですね。
学びとは何か
これも認知科学を学びたくて読んだ本。
子供が母語を習得する過程を中心に2、人間の学習過程を詳しくみて「生きた知識」とは何かを述べ、それを踏まえて超一流の人々がどのように自らを鍛えているかに論が移っていきます。
本書は「思考の整理学」とは別ベクトルで衝撃を受けました。ドキュメンタリー番組などで超一流の人たちを指して「進化し続ける」という表現がなされることがありますが、まさに達人の姿勢と不可分だったわけです。
一方で「進化し続ける」ことがいかに難しいかも語られています。脳はエネルギーを大量に消費するので、省エネしたがる仕組みになっているのは当然3。思考停止はラクです。
「人はいかに学ぶか」で言及された「知識のドネルケバブモデル」も含めてこの本については語りたいことが山程あるなあ。ブログにしときゃよかった気もするけど、いかんせん内容が良すぎて記事にするとただの要約になってしまいそう。
プログラマー脳
認知科学を応用してプログラミングの「難しさ」とよりよいコードの書き方を問いてくれる本。
「可読性の高さ」「コードの臭い」って本人の主観によりがちですが、この本では脳の仕組みにしたがってどういう書き方が良くないかをきちんと語ってくれます。おかげさまでレビューコメントの質が上がりました。
あと、本書の内容を引用してRubyの言語仕様について考察した「Rubyはなぜ『たのしい』のか」という発表を社内勉強会でやりました。
どこかの地域Ruby会議かなにかで供養しようかな。
ネットワーク科学が解明した成功者の法則
骨しゃぶりさんの記事4を読んで面白そうだったので読んだ本。
意識高い系ビジネス書みたいなタイトルですが、中身はネットワーク科学を駆使して成功とパフォーマンスの相関を分析するガチの研究。
著者によるとセルフヘルプ(自己啓発)本ではなくサイエンスヘルプ本だそうな。
著者らによる「成功の法則」は5つあって、
- 前衛芸術がほとんどの人には分からないのになぜ成立するか
- 「消えた天才」がなぜ生まれるか
- 無名の新人が書いたハリポタがなぜ成功したか
- チームの名声がなぜ1人に集中するか
- 終わった人扱いされていた手塚治虫がなぜ「ブラックジャック」を生み出せたか
などなどに示唆が得られます。脳内に色んな例を浮かべながら読むのが楽しい本です。
しかしITエンジニアには「パフォーマンス」も「成功」もたくさん指標があって困ります。何をもって成功とするかを自分で決めるのがまずは重要ですね。
点検読書した本
こちらは点検読書だけした本です。それでも2-3時間はかけてます。かけすぎかも。
調べる技術
独学大全公式Twitter(当時)(@kurubushi_rm)で激推ししていたので買った本。
メルマガをもとにした単行本ですが、連載も追っていたので読むのは2回目ですね。
載っているのは人文科学系の調べ物のノウハウなので、自分が直接的に役立てる機会は少なめです。しかし、修得しておく価値は多いと感じます。それこそ認知科学のように今後何に興味を持つか分からないので。
こういうノウハウをChatGPTにでも食わせて文献を提示してくれるシステムを作れないかしらん。
習慣と脳の科学
これは認知科学系の新刊ということで読んだ本。
習慣化、大事ですよね。ただ、習慣に関する研究は各種の依存症治療が目的らしく医学的な話題も多めです。
新書のようなタイトルですが実験的事実が淡々と述べられていくガチの専門書です。何を読み取るかは読者次第なので、私生活に役立てるには時間をかけて読んだ方が良さそう。
監訳者の解説が充実していて「裏テーマ」についても理解しやすい作りになっています。
達人のサイエンス
川崎さん(@_geeknees)に勧められて読んだ本。通読もしました。求道者(マスタリー)になるための実践が書かれています。
「私たちはどう学んでいるのか」「学びとは何か」で説明されている内容も多いのですが、原著はこれらの本のはるか昔である1991年。日本語訳ですら1994年です。
この本に述べられていることが後の研究で裏付けられた例もありそうです。
しかし、結局この本の主題は「マスタリーとは生き方」でした。亀仙人の教え5を思い出します。
脳はこうして学ぶ
書店で見かけて、一目惚れして買った本。……のはずなのですが、かえって自分の中の心理的ハードルが上がりすぎて未だにちゃんと手に取れず。
認知科学の本の中でも脳の生物学的な働きに重点が置かれていて、かつそれが「いかに学ぶか」という主題に沿って説明されています。
学習の四本柱は「注意」「能動的関与」「誤りフィードバック」「定着」だそうで、デールの円錐6で語られたことが裏付けられていますね。
これは来年しっかり精読したい。
英語独習法
「学びとは何か」の今井むつみ先生の本。英語の学習の仕方を考えるために読みました。
知識を生きたものとして運用しているスキーマの解説と、自分の中に「英語のスキーマ」を作るための具体的な学習法のセット。
本書に載っている英英辞典やコーパスを使った言葉選びのニュアンス調べは、現在ではChatGPTに聞けば一発7だったりします。
それを利用した学習法も発案したものの、平日の時間の確保に失敗。マジでどうすりゃいいんだ。
これも上手く行ったらどこかに出したいなあ。
エンジニアのためのドキュメントライティング
チームでドキュメントを整備したいと思って買った本。技術ドキュメントについてノウハウを語った本は国内ではこれだけじゃないですかね。
ユーザ調査から始まり作成・フィードバック収集・品質測定・保守と展開してくのはプロダクトマネジメントの本のようでした。というか、ドキュメントを題材にしたプロダクトマネジメントの本といえるかも。
「品質測定」の章が出色で、ドキュメントに対して * メトリクスを定めて測定する * ビルドトラップを回避するよう心がける
という発想は本書なくして持てないものでした。
訳書なので日本語文章術に対する記述がないのが玉に瑕ですが、それは訳者の岩瀬さんがフォロー8してくださっていました。
日本語の作文技術
チームでドキュメントを整備したいと思って買った本その2。大江戸Ruby会議でのinaoさんの発表9で紹介されていたのが直接のきっかけです。
文章を書くときにいつも悩む
- 読点の打ち方
- 修飾語の語順
- 目で形態素解析しやすい書き方
あたりを新聞記者のノウハウから解説してくれる本です。
特に「日本語は述語中心に組み立てる、主語の必要ない言語」という主張は出色で、これを心に留めるようにしてから文章を書く途中に詰まることが減りました。主語を遠慮なく省略したり、名詞にごたごた修飾をつけていたのを節に開いたりするようになったからです。
「著者が割と毒づいている」「例文に"朝日新聞"を感じる」あたりで人を選ぶ本ですが、逆に著者の人間性が出ているからこそ楽しく読み進められるのも事実。
特に「無神経な文章」の章はサムい文章をこき下ろす悪口漫談のようで笑いながら読んでしまいました。
「理科系の作文技術」とセットで社内文書のガイドラインの参考文献にしました。
載せきれなかった本
他にも
- 通読したけど読み込みたい本10
- 読みかけの本
- 社内読書会で扱った本
- 読む気はあるけど積んでる本
- 趣味の本や漫画
などもありますが、すでに記事が結構な分量になっているので省略します。
来年の読書生活
今年の空いている土日はほとんど本を読んで過ごしていました。
自分の中の認知科学への熱が年初より少し減っているのと、コードを書く量を増やしたいのとで少し減るとは思いますが、引き続き本を読んでいきます。
この記事を書くの楽しかったけど大変だったので、来年は上半期・下半期で出したいなあ。夏休みに時間を使えると良いのですけどね。
ではみなさん良いお年を。
- 「お金があるから」「優秀な人がいっぱいいるから」みたいな話になることも多数。。。↩
- 著者の今井むつみ先生は言語発達、認知発達、言語心理学がご専門とのこと。今年も「言語の本質」という新書が話題になっていました↩
- 省エネしなかったご先祖様は餓死して淘汰されていったのでしょう↩
- 人付き合いって大事かなと思ったら読みたい3冊 - 本しゃぶり↩
- ホントは深い、亀仙人の言葉。ドラゴンボールに流れる「武道の精神」を現役格闘家が解説してみた| 【公式】ドラゴンボールオフィシャルサイト↩
- ラーニングピラミッド - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%94%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%89 和田卓人(@t_wada)さんが引用されているのをよく見かけます↩
- XP祭り2023の懇親会で翻訳の仕事をしている方にこの話を振ってみたら、やはり活用されているとのことでした↩
- エンジニアのためのドキュメントライティング / Docs for Developers - Speaker Deck↩
- WEB+DB PRESSと私 - Speaker Deck↩
- これは「ハッカーと画家」です↩