部屋の隅っこで書く技術ブログ

Web系企業勤務のエンジニアリングマネージャのブログです。技術ブログと称しつつ技術にまつわる個人的な話題が多めです。

【SHIROBAKO】劇場版での5人組と、プロ意識の話

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この記事は、SHIROBAKO Advent Calendar 2020 - Adventar 21日目の記事です。

adventar.org

2015年から始まったこのアドベントカレンダーも6年目となり、毎年みなさんの熱量に圧倒されるばかりです。 自分は昨年から参加しているのですが*1、今年は新しい参加者が増えてなんだか嬉しいですね。

さて、今年のSHIROBAKOに対するトピックといえばなんといっても劇場版の公開でした。

自分は通常上映・再上映のあわせて2回見てきたのですが、まだまだ見足りないのでBD予約しました。 何度見ても新しい発見があるのがSHIROBAKOという作品の魅力ですよね。

それはなんといってもSHIROBAKOが群像劇としてよくできていて、出番の少ないキャラクターにも背景やパーソナリティが丁寧に設定されていることからだと思います。

だからこそサブキャラクターにも人気があり、キャラクターを語る記事がアドベントカレンダー6年の歴史の中でも多いのですが、それゆえに主人公格である上山高校アニメーション同好会の5人について語られることが比較的少ないんです。作品の多くの時間が彼女たちの成長に割かれているため、今更という感じで語られないのは実にもったいない。

そんなわけで、今回は宮森・絵麻・しずか・美沙・みどりの5人にスポットを当てていきます。

全体的に遠慮なくネタバレしていきますので、まだ見てない人は今すぐBDを予約して、見てからお読みください。 来年1/9発売です。

クリエイター組4人の悩み

劇場版におけるメイン5人のテーマは、「プロとして生きるとはどういうことか?」だったのではないかと思います。

今作では前作から4年後の物語となり、5人ともそれぞれ仕事が軌道に乗り始めています。
しかし、宮森を除く4人はクリエイターと職業人とのあいだで揺れ動いて悩みを抱えていました。

絵麻はTV版で作画監督の仕事を経験し、その後も宮森曰く「キャリアを確実に積んでいる」とのこと。
一見順風満帆に見えますが、プレッシャーから仕事自体をあまり楽しめていない様子。

f:id:expajp:20201220232015j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1234492629661999112

しずかは「第三飛行少女隊」のルーシー役がきっかけかはわかりませんが、芸能人として、顔出しで売れてきています。
仕事がなくて自宅で酔いつぶれていた頃に比べれば恵まれた環境ですが、声の仕事がやりたい本人の希望と求められることとがずれてしまっているようです。

f:id:expajp:20201220233613j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1249669404767354880

美沙はTV版の時間軸で転職した会社に在籍しつづけており、チームリーダーを任されています。
ただ、後輩たちとのコミュニケーションがうまく行っておらず、マネジメントに苦労する日々。

f:id:expajp:20201220233726j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1235216823424962561

みどりは新進気鋭の脚本家としてインタビュー記事が出るなど出世街道を駆け上がっている一方、初脚本作品が爆死して落ち込んでいるという現状です。

f:id:expajp:20201220233826j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1235593257230327808

4人ともそれぞれクリエイターとしての技術を持ち、「好きなことを仕事にした」はずなのに、満足のいく日々を送ることができていません。

このあたり夢を仕事にすることの難しさで、やりたいことを仕事にしてもやりたいようにやれるとは限らないし、仕事の結果が周囲や世間に受け入れられるとは限らないんですね。 特に厳しいのは発注元やチームでの信頼を得ることで、一度でも裏切ってしまうともう仕事を続けていけなくなってしまいます。

これらの悩みは杉江さん、舞茸さん、縦尾先生などによって解決していましたよね。

仕事として守るべきラインを守りつつちゃんと楽しむこと。仕事に自分の意志を反映させて楽しいものに変えていくこと。スタンドプレーに陥らずチームで仕事をすること。時には人に胸を貸してもらって腕を磨き続けること。

おかげで、4人は晴れ晴れとした顔でSIVAの公開を迎えることができていました*2
ベテランがベテランとして道を示してくれるからSHIROBAKOは好きです。

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引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1329753603918102529

ところで、杉Gのアニメ教室*3や縦尾先生としずかとの会話*4など「お悩み解決シーン」は名シーンが多いのですが、特に舞茸さんとみどりのキャッチボールが好きです。

ここはTV版では完全無欠に見えた舞茸さんが初めて悩むシーンで、「えくそだすっ!」のときに木下監督と「キャッチボール」をしたシーンのセルフオマージュになってます*5

それから、ここは「半人前なのに要領が良いから仕事が取れてしまい失敗した」みどりに胸を借りることで逆に背中を見せることになっているし、最後の「商売敵」宣言でみどりを一人前と認めるという、師匠キャラとしても最高のシーンです。みどりは本当に良い師匠にめぐりあいました。

f:id:expajp:20201220234011j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1244964656038309889

宮森の悩みとプロとしての成長

閑話休題

まとめると、SHIROBAKO劇場版の物語の中で、4人は

  • 主体的に仕事を楽しみ、楽しめるものに変えていくこと
  • 仕事仲間や発注者との信頼関係をなにより大事にすること

を学んで今後もプロとして生きていく指針を得ることになりました。

翻って、総合職である宮森はどうなのでしょうか。彼女はTV版最終話でアニメ制作の世界に身を置く腹を決めていました。

expajp-tech.hatenablog.com

今回もタイマス事変を経たところにSIVAの話を持ってこられて悩みますが、改めて覚悟を決めて*6制作に乗り出します。

再上映版本編後の座談会で宮森役の木村珠莉さんが「やっと主人公になった」とおっしゃっていましたが本当にその通りで、SHIROBAKO劇場版は正しく宮森の物語でした。
なんというか、巻き込まれた環境で周囲の助けを得ながら前に進んでいく「ヒロイン」的なキャラから、自ら物事を進めていく「ヒーロー」的なキャラになっていたと思います。

アニメ制作パートが始まってからはまさに宮森無双で、企画に自分の意見を反映させつつ*7どんどん物事を前に進めていきますし、彼女が培ってきた周囲からの信頼は絶大。クリエイティブ面との間で揺れ動くことがないぶん、宮森は他の4人が悩んできた部分はすでに超えているように見えます。

そんな宮森も劇中で本気で思い悩んでいましたね。制作を投げ出した「げ〜ぺ〜う〜」から分け前を要求され、途方に暮れる場面です。
深夜の公園でブランコを漕ぎながら、ミムジーとロロに「甘ったれるな―!」されてPとしての役割を問われます*8

ここでロロが提示したPとしての役割は、「お客さんに作品を届けること」でした。

大事なのは、「主体的に仕事を楽しむ」「信頼関係を築く」というを超えた先の宮森には、職場の外にいる、最終消費者たるお客さんの存在が見えたということです。
プロとして明確にここにたどり着けたのは、5人の中では宮森だけ。
そしてこのプロ意識が、分け前の要求をはねつける覚悟だけでなく作品に妥協しない姿勢にも反映され、あのラストシーンにつながるわけです。

「劇中劇を長尺かつ本気の作画で見せる」というのはSHIROBAKOでしかできない演出です。
そして、あのSIVAのラストシーンは「たとえ結果がどうであっても、全力を尽くして良いものを届ける」という宮森の覚悟が現れていました。
劇場版だからこその作画クオリティで、劇場版での主人公の成長を見せる、最高の演出でしたね*9

f:id:expajp:20201220234251j:plain 引用元:https://twitter.com/shirobako_anime/status/1309331648626847744

SHIROBAKO劇場版が提示した「プロとしての姿勢」と次回作

SHIROBAKO劇場版におけるメイン5人には「プロとして生きるとはどういうことか?」というテーマが与えられ、作中では以下の答えが提示されていました。

  • 主体的に仕事を楽しみ、楽しめるものに変えていくこと
  • 仕事仲間や発注者との信頼関係をなにより大事にすること
  • お客さんに作品を届けること

一番下にたどり着いたのは宮森だけで、今回は宮森がそこにたどり着くまでの物語でした。
「世界中の子供達が笑顔になってくれたら」と語る杉江さんの境地にまで果たして皆はたどり着けるのでしょうか。

ところで、もしSHIROBAKO劇場版の次回作があるなら今度こそ「七福神を作る話」になるんじゃないかなと思うのですが、きっとその頃には他の4人にもお客さんが見えているのでしょう。
そうすると、今度は七福神の企画が売れないから却下されかける、とか事前告知の評判が最悪、みたいな「商業性と作家性のバランス」の話でしょうか。

まあ、そのテーマだと大人の事情を語るアニメとなってしまって今回に増してリアルでハードになるので、果たして実現するのかどうか……
とはいえ、水島監督はじめSHIROBAKOスタッフなら絶対に面白くしてくれるという信頼感も確実にあります。

妄想乙と言われようとも楽しみです。

f:id:expajp:20201220234751j:plain 引用元:【SHIROBAKO】第24話 感想 本当にアニメは、人類を繋ぐ最高の文化だ!【最終回】 : あにこ便

最後に少しだけ、プロとしての自分

ここまで偉そうに語ってきましたが、自分に関しては棚上げして書いたので「お前のプロ意識はどうなの」と聞かれると答えに窮するしかありません。

ITエンジニアなので立場としては宮森以外の4人に近いのですが、正直なところ仕事は楽しめているし自分の意見も反映させられているし、現職3年目ともなれば信頼関係もかなり築けてきていると自負しています。
ただ、やっぱりお客さんは見えづらいですね。

今年は開発よりもリーダー業が中心で、チームから挙がる課題を漏らさず受け止め素早く実装していく仕組みづくりに注力していました。
それはある程度成功して新機能を届けるスピードは上がりましたが、それに対するお客さんの反応はいまいちわかってないです。

自社が展開しているビジネスを効率化するためのプラットフォームなので、KGIはお客さんの満足より限界費用の削減にある、というのも一つの理由ではあります。

しかし、お客さんの顔が全く見えないのはやはりマズい。使いやすいプロダクトを作ることができれば、問い合わせ工数が減ってビジネスに寄与するわけですからね。

そんなわけで、来年はもう少しお客さんを意識したいと思います。

まとめ

  • SHIROBAKO劇場版における5人組のテーマは「プロとして生きるとはどういうことか?」
  • 今回は正しく主人公だった宮森にだけ、お客さんの存在が見えていた
  • 次回作の妄想がはかどった

年明けのBDが楽しみです。

*1:昨年は遅刻失礼しました。。。

*2:最後に5人で映画を見ている場所のモデルは新宿バルト9でしたが、再上映版をたまたまバルト9で見たので感動しました

*3:杉江さんは本当に良いところを持っていきますね。それでも説得力のあるキャラクターなのだからすごい。それから5人が出てきたときに「おばさん」って言った子供に説教してやりたい

*4:メイン5人の異性関係はぼかされてるので、夫婦関係に例えて話すのは少しそわそわしました

*5:今回は実際にキャッチボールしてますね

*6:「アニメを作りましょう」のシーンを早くBD版のコマ送りで確認したい

*7:これはナベPがTV版で揶揄されていた部分でもあります。この面においては宮森はPとして先輩を超えたのかもしれない

*8:まあ、実際は自問自答なんですけども

*9:劇中では3週間ということになっていましたが、実際はどれくらいかかったんだろう